8月28日現在、ヤフオクで高値をつけているコミックがある。「ときめきトゥナイト」シリーズの15年ぶりとなる新刊『真壁俊の事情』だ。落札価格の相場は1600円程度と、定価の約4倍にまではね上がっている。

出生から蘭世や神谷陽子との出会い、プロポーズ秘話など8つのエピソードを、真壁俊の視点で描いた新作。発売情報がリリースされるや注文が殺到し、予約しても手に入らなかった人もいるほど。

連載当時、蘭世ならずとも真壁俊に骨抜きにされた全国約200万人の小学生が、今なお“ときめき”を欲している証だろう。

「ときめきトゥナイト」が連載されていた1980年代~1990年代半ばは、りぼん黄金期といわれている。本田恵子「月の夜 星の朝」、柊あおい「星の瞳のシルエット」、一条ゆかり「有閑倶楽部」、岡田あーみん「お父さんは心配性」、萩岩睦美「銀曜日のおとぎばなし」、吉住渉「マーマレードボーイ」、矢沢あい「天使なんかじゃない」などなど。個人的には坂東江利子の読み切りホラーも黄金期の代表作品に入れたいところ。

で、魅力的なキャラクターたちが活躍したあの時代のりぼんにおいても、真壁俊の人気はダントツだった。現に、Amazonのレビューでは『真壁俊の事情』について、「思春期に真壁俊というパーフェクトな男子に出会ってしまったゆえに理想が高くなり、30~40代女性の未婚女性が増えたのでは」という書き込みも……。

学校ではちょっぴり不良(ワル)なのに捨て猫には優しかったり、「女に興味ない」と言いながら、愛する蘭世を命がけで守ろうとしたり。元祖ツンデレ・真壁くんは、元りぼんっ子たちの恋愛観にどのような影響を与えたのだろうか。

「『理想の男性は?』と聞かれると、一瞬、真壁くんを思い浮かべてしまいます」とは、久美さん(37才)。

「『ときめき~』にハマっていたのは小学生のころ。周りの男子が子どもっぽくてバカみたいだったのに、真壁くんはクールで強くて、本気で『この人だ!』と思っていました。ストーリーのなかで、蘭世のことを考えて、真壁くんが別れを切り出すシーンがあります。ショックで蘭世は気絶したのですが、そりゃあんな素敵な人に振られたらぶっ倒れますよ」

久美さんは、気を失った蘭世にそっとキスをし、ひとり去っていく真壁くんの後姿が強烈に印象に残っているのだという。その後、さまざまな漫画を読んだが、真壁くんを越えるキャラクターはあらわれなかったそう。

「で、大学生になったころ。サークルや学校で男性との出会いが増えたのですが、かっこよくてクールな人はどこにもいませんでした。そこで現実というものをなんとなく受け入れたのですが、理想が高すぎるのか未だに独身です(笑)」

浩子さん(35歳)は「あの作品で、現実世界と二次元世界のギャップに気づくのが遅くなった」と振り返る。

「小学生当時は、蘭世になりたい!と本気で願っていましたね(笑)。だからこそ、ジャニーズショップに並んでいる子をみると『そこに並ぶより、近くの美容院に入りなよ。イケメンもいるし、かわいくなれるよ。現実的だよ』と言いたくなるんです。まぁ、二次元萌えはアイドル好きよりももっと深いところにいますが……」

キヨミさん(37歳)は「話題豊富な男性よりも、どこか陰のある人に惹かれるのは、真壁くんの影響かもしれません」。

「制服のジャケットの袖をまくり、ネクタイをほどよくゆるめ、鞄を持った手を肩に乗せている姿が、当時小学校低学年だった自分には、すごくかっこよく見えました。やさしさ、男気、哀愁、すべてを兼ね備えていて、いまも理想の男性。でも、真壁くんのサラリーマン姿って、まったく想像がつかないじゃないですか。もし会社勤めをしていたら、無口・無愛想・無表情で、社内で浮いた存在になるでしょうね。現実の、とくに大人の社会にはあり得ないキャラクターなんです。本気で真壁くんを理想としていたら、誰とも恋愛なんてできなくなっちゃいますよね」

「ときめきトゥナイト」および真壁俊がりぼんっ子たちに教えてくれたのは、片思い独特のふわふわした楽しさだ。連載スタートから第一部が終了するまで約5年、私たちは蘭世の目を通して、真壁くんを追いかけ続けてきた。「私のことを好きみたいだけど、本当に好きなのかしら?」なんて甘いドキドキ感を手放したくなくて、現実世界でも、告白のタイミングを逃してしまったこともあるかもしれない。“独身なのは真壁くんのせい”との言い分は、99%被害妄想だが1%は真実だ。

そしてこりもせず、今の時代に真壁俊がいたらどうだろうと考える。きっとスマホではなくガラケーを使っていて、蘭世がメールを送っても「わかった」程度のそっけない返信しかくれないだろう。ゆめゆめアイスケースの中で寝そべっている写真をネット上に公開するようなことはしない……。今回の新刊発売をきっかけに、久しぶりに真壁くんを思い出し、少女時代の胸キュン気分を味わうことができた。懐かしい初恋の人との再会をかなえてくれた池野恋先生に、ありがとう!(来布十和)

(トップ画像)「ときめきトゥナイト 真壁俊の事情」表紙 (c)池野恋/集英社


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この記事の執筆者

来布十和

来布十和

出版社、編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーランスライターに。中学生向けから主婦系まで女性誌を中心に幅広く執筆活動を行っている。得意分野は美容、料理、30代女性の恋愛&結婚ネタ。