『だれかの木琴』(C) 2016 『だれかの木琴』製作委員会「結婚しても、ときめきたい気持ちはなくならないよ(笑)」「むしろ必要不可欠!」とは、既婚女性たちのジョークを交えた談。

ときめきを感じさせてくれる男性の存在は、家事や子育て、仕事などの疲れから一時的に現実逃避させてくれるものとして、伴侶を見つけた既婚女性たちにとっても欠かせない存在のようです。

「ときめきを欲する気持ち」は一体いくつまで、人の心を揺さぶるものなのでしょうか。


■ 一方的に「ときめきの対象」を追いかけるのは、ラクで楽しい。だからハマる?

韓流ブームや国内男性アイドル、新進のイケメン俳優などの人気を少なからず支えていると言われる、既婚女性たちの存在。独身時代はそうでもなかったのに、結婚してからアイドルグループなどに“ハマり直す”方も少なくないですよね。子どもと一緒にコンサートやイベントに出かけている女性も多くいるようです。

こうした現象が起きるのは、日本特有の「いい母親であれ、というプレッシャー」や「結婚してから現役の“女”でいるのは、あまり良くないこと」とする風潮が原因、と指摘する人たちもいます。男性も女性も、家庭内ではお互いに恋愛対象として見合うのが“不自然”と感じるため、外にときめきの対象を求める形になっていく…というわけですね。

もちろん、それで円満にバランスが取れているのであれば問題はないのでしょう。それに、男性が奥さんをいつまでも“女性”として扱っていれば、外にときめきの対象を求めなくて済むのか…と考えてみたところで、そう単純な話でもないですよね。米人男性と結婚したある友人は、「こっちでは逆に『いつまでも女でいろ』っていうプレッシャーがすごい」「定期的に子どもを預けてデートしよう、だからキレイでいてくれ…とジムを薦められる!」なんて話を教えてくれましたが、それはそれでしんどい、と感じる日本女性もいそうですよね。

そう考えれば、ときめきの対象を一方的にただ追いかけるのは、非常に楽しくてラクなこととも言えます。こちらが現役の“女”であろうとなかろうと、追いかけるのは自由だし、恋愛特有の面倒な部分も切なさ・悲しさもない。無責任に好きでいられるけれど、そうした対象が心のなかにいるだけで、キレイでいようと思えたり、日常に張りが出たりもする。恋愛感情の“いいとこ取り”ができるとも言えそうです。

■ 心の隙間に入ってきた1本の営業メール。“主婦ストーカー”を描いた映画が公開

しかしながら“ときめき”は、それだけで済まないケースもあるのが怖いところ。昨今、世をにぎわせている不倫しかり、有名芸能人宅に不法侵入した女性ストーカーしかり、危うい形でエスカレートしてしまうと、家庭や人生を崩壊に導くこともあります。

9/10に公開になった『だれかの木琴(http://darekanomokkin.com)』も、そんな女性の危うさを描いた作品のひとつです。気まぐれに入った美容室で若い美容師・海斗(池松壮亮)に執着心を覚える、主人公の主婦・小夜子(常盤貴子)。心に隙間を抱えていた彼女は、髪を触られたときめき、そして「またお店でお会いできるのを楽しみにしています」という営業メールだけで、海斗にすっかり心を奪われてしまいます。そして本人も無自覚のまま、家族や彼の恋人も巻き込んで“主婦ストーカー”となっていってしまうのです。

一見円満な家庭を築いていた小夜子。しかし、夫との関係は男女のものではなくなり、娘も大きくなって小夜子はどこか満たされない飢餓感のようなものを抱えていました。彼女の不安定な状態に気付きながらも、一見平和なやさしさで取りなす夫の姿はなんだか妙にリアル。一方の娘は正面から「ちゃんと母親でいてよ!」と訴えますが、小夜子は「私だって母親だけやってるわけじゃない」と無表情で言い放つのです。ラストにかけての描写は、逃れられない“女の性(さが)”のようなものを感じさせられ、背筋が寒くなってさえくるのでした。

この映画の怖さは、自分にも起こり得そうなギリギリの境界線を描いているところ。ネットの普及でコミュニケーションの壁が低くなっている今の時代、異性と“親密になったような勘違い”をしてしまうのも日常茶飯事。一方的な“ときめき”は、コントロール可能な範囲、つまり「絶対に手の届かない存在と自覚しながら、遠くから応援する」くらいの感覚で留めておかないとエスカレートしやすいことは、他人ごとではなく自覚しておきたいな…と思わされた次第です。

直木賞作家・井上荒野による同名小説を、名匠・東陽一監督が脚色・映画化した『だれかの木琴』は、有楽町スバル座、シネマート新宿ほかにて全国公開中です。「ときめき」とは一体何なのか、女性はなぜそれに“狂う”ことがあるのか−−。一度じっくり考えてみる価値のあるテーマかもしれません。(外山ゆひら

『だれかの木琴』(C) 2016 『だれかの木琴』製作委員会

<関連リンク>
「性的魅力」を感じない相手と結婚できる? のちに芽生えた人も!